#030 筋力画力理論が障害を持つ方々の自立を支援!「デジタルおえかき講座:1限目」

#030 筋力画力理論が障害を持つ方々の自立を支援!「デジタルおえかき講座:1限目」

斉藤幸延と自立生活訓練事業所ジョブエルによる新しい障がい者支援サービスが始動!

2023/8/11

目次

    こんにちは、文筆家/ライターの淺羽一( @KotobaAsobiComです!
    今回はパートナーアーティストであり、筋肉イラストレーターとして大活躍中の斉藤幸延( @yonyon76が、障害を抱える方を対象とした新しい支援プロジェクトへ携わることになったので現地を取材してきました。
    今回から計3回にわたり、兵庫県明石市にある自立生活訓練事業所「ジョブエル」さんの全面協力の下、「筋力画力理論」をベースとした障がい者向け「デジタルおえかき講座」の授業風景や取り組みの内容について皆さんとシェアさせていただきますのでお楽しみください!
    デジタルおえかき講座:イラストレーター斉藤幸延と、自立生活訓練事業所「ジョブエル」が共同でスタートさせたアート系の障がい者支援サービス事業。障害福祉サービス事業所において、障がい者などへ画像編集ソフト「Photoshop(フォトショップ、以下フォトショ)」を使ったデジタルアート技術を提供して自立に向けたスキル習得を支援すると共に、制作したイラストなどをNFTアートとして公開し収益化へつなげる取り組みをサポートする。
    筋力画力理論についてはこちらの記事を参照!〉→#001 【ごあいさつ】+【筋力画力理論とは?】





    【斉藤幸延のデジタルおえかき講座:1限目】

    第1回目となる今回は、筋力画力理論と障がい者支援サービス事業が融合した新プロジェクト『デジタルおえかき講座』の1限目の様子や、現在の日本の障害福祉サービス・介護福祉事業について楽しく解説していきます!


    〈障害福祉サービス事業「自立生活訓練事業所」とは?〉

    さて、デジタルおえかき講座の授業風景について紹介する前に、まずは「障害福祉サービス事業」「自立生活訓練事業所」について概要を把握しておきましょう。


    障害福祉サービス事業とは?

    障害福祉サービスとは、何らかの障害や事情によって介護や支援を必要とする人々が、それぞれの障害の適性に合わせて介護サービスや訓練支援などを受けられる事業の総称です。
    また障害福祉サービスは、市町村が取り組む「地域生活支援事業」と、介護福祉事業者などが提供する「障害福祉サービス事業」に大別され、さらに訪問介護や生活介護をサービス提供する「介護給付」と、自立生活援助や自立訓練・就労支援といった「訓練等給付」に細分化されていきます。

    障害福祉サービスは〝個々の障害の特性や程度に合わせた支援計画〟に則って提供されており、今回の「デジタルおえかき講座」もまた「自立訓練(生活訓練)」の一環として構成されています。


    障害を抱える人が自立した生活を送れるように支える場所

    自立生活訓練事業所とは、福祉サービス事業において「自立訓練(生活訓練)」をサポートするための事業所であり、施設利用者にとって文字通り「自立した生活」を送るための知識や技術などを学んで経験する場所です。
    自立生活訓練事業所では利用者がいきなり一般企業への就職・就労を目指すのでなく、将来的に色々な選択肢を考えていけるよう、前段階として自己の生活リズムを整えたり、社会生活を送る上で価値のある能力を訓練したりすることが主目的となります。

    なお、自立生活訓練事業所「ジョブエル」では自立訓練(生活訓練)からのステップアップとして、利用者へ働く機会や場所を提供する「就労継続支援」が実施されていることもポイントです。


    自立生活訓練事業所の利用者は?

    厚生労働省の資料によると、自立生活訓練事業所を利用する対象者は、基本的に「生活能力の維持向上を目指すために、一定の支援を必要とする知的障害者・精神障害者」となります。
    具体的には、入所施設や病院を退所・退院した上で地域生活への移行を目指している人や、養護学校を卒業した上で症状が安定しており、地域生活を営むための生活能力の維持・向上などを目指して支援を必要としている人などが該当します。

    とはいえ、これはあくまでも〝制度としての分類〟であり、社会に様々な人や個性が存在しているのと同じように、実際に事業所を利用している人々にもまた千差万別の個性や特性があることは覚えておかなければなりません。

    ジョブエルでは、障害者手帳・自立支援医療券を持っており、発達障害・精神障害・中途障害で悩んでいる18歳以上の人が利用対象者として想定されており、通常の訓練日時は平日の10時~15時となっています。
    ※2. 中途障害:先天的な障害(生まれつきの障害)でなく、人生の途中に発生した事故や病気、原因不明の理由などによって後天的に生じた障害のこと。



    個人の意思と感性を尊重した支援を考える

    自立生活訓練事業所の利用者を一言でまとめれば「知的障害者・精神障害者」として表現できるでしょう。事実、〝制度のルール〟として考えればその通りです。
    しかし、実際に事業所を利用し、一人の人間として自立した地域生活や社会生活を送ろうと目指している利用者は、全員がそれぞれ異なる個性や特性を抱えた人々です。その点でいえば利用者も、僕を含めてその他の社会で暮らす人々も本質的に違いはありません。

    そのため、当然ながら適切な支援の方法や個々の適性に合わせたスキルなども千差万別であり、サポートする側も真に有意義な支援体制を整えようと思えば、上から目線で一方的に知識や授業を教え込むのでなく、個々の事情や背景、何より個人の意思や感性を尊重しながら寄り添う意識と覚悟が求められます。


    〈デジタルおえかき講座:1限目〉

    楽しみながら知識と技術と積み重ねるデジタルおえかき講座

    それでは、実際にジョブエルの「デジタルおえかき講座」はどのような雰囲気で、どのように進められているのでしょうか。
    僕が現地を訪れて授業へ〝参加〟させてもらったのは、試験的に開催された初日の授業から数えて3回目となる2023年7月29日――肉の日でした。


    場所は兵庫県明石市にある自立生活訓練事業所「ジョブエル」(明石市相生町1丁目2-34 佐藤ビル105号室/108号室で、斉藤幸延と一緒に現地へ到着したのは午前9時を少し回った頃。
    当日の授業は1時間(休憩含む)を1コマとして、
    • 1限目:10時~11時
    • 2限目:11時~12時
    そしてお昼休みをはさんで、
    • 3限目:13時~14時
    という構成でした。
    なお、普段であれば斉藤幸延は9時半頃に現地へ入り、授業開始までにパソコンやモニターを準備したり参加予定者について職員さんと打合せをしたりするそうです。

    デジタルおえかき講座を開催する教室には、ジョブエルを含めて複数の福祉サービス事業を運営する一般社団法人伸楽福祉会の副代表であり、総務や経理といった事務を担当する山下さん(以下、副代表)と、社会福祉士と精神保健福祉士の両資格を持ち、事業所長かつサービス管理責任者として利用者のケア体制をまとめるT所長の2名がおり、僕と斉藤幸延を迎えてくれました。


    ちなみに、副代表と、その夫であり伸楽福祉会の代表理事を務める山下さん(以下、代表)はそろって怪獣映画「ゴジラ」に詳しく、お土産として持参した斉藤幸延の「ゴジラアート」で朝一から盛り上がったのは何とも和やかな日常の雰囲気を象徴しているようでした。


    さて、僕はといえば、取材の許可は斉藤幸延を通して事前に得ていたものの、改めて副代表やT所長らへ挨拶させていただき、続けて授業風景を取材する上で注意すべき点や配慮すべき点について質問しました。

    返ってきた言葉はシンプルでした。

    「個人のプライバシーを守ってもらうのは当然として。障がい者や利用者といっても皆さんそれぞれが特性を持っていて、一人ひとりが異なる目標や事情を抱えている人達なので、ここでは何をしたらダメで、何であれば大丈夫といったように考えるのでなく、それぞれの方々を見て接してあげてください

    人々をひとまとめにカテゴライズするのでなく、個々の人格に向き合う
    それは〝当たり前〟に守られるべき対人コミュニケーションの基本で、けれど普段から意識しなければつい忘れてしまいそうになるほどの〝当たり前〟で。
    同時に、そんな当たり前をプロとして見学者へ再確認しなければならない責任の重さと介護福祉業界の現状を、ほんの少しだけ垣間見た気分になりました。



    始まる前から明るくて楽しそうな雰囲気

    授業の開始時刻が近づくにつれ、一人、また一人と利用者――当日の〝生徒〟が教室へ入ってきました。僕はその人達と互いに「おはようございます」と挨拶を交わしつつ、全員の様子を教室の一角から眺めていました。
    僕が何よりも先に抱いた感想は
    (明るいな)
    でした。

    僕は仕事柄、これまでにも介護や福祉、就労などに関連した人々や団体と接しており、色々な場所やイベントを訪問して様々なケースを見てきました。そしてその中には要介護・要支援の対象者となる人々が外部の人間に対して極めて内向的であったり、あるいは障害の影響によって極端に陽気だったりと複数のパターンがありました。

    さて、ジョブエルの雰囲気は確かに障害福祉サービス事業所のものでありながら、同時にあたかも〝普通の〟――どこにでもありそうな大学や専門学校の教室のような感じでした。確かに歩行が不安定であったり身体的な活動制限があったりと、一見して障がい者であると推察できる人もいます。しかし教室全体に漂う空気は、まるで僕自身の学生時代のそれと変わらないようなものでした。

    (あぁそうか。彼ら/彼女らは〝誰かにやらされて〟いるのでなく、〝自分がやりたい〟から通っているのか)

    それもまた〝当たり前〟のようで、けれど実際の障害福祉サービスの現場では決して〝当たり前でない〟と僕が以前から思い知っていた現実でもあります。


    挑戦したい人が学べるデジタルおえかき講座

    前述したように、そもそもジョブエルにおいて自立訓練の日時は〝平日〟が基本です。そしてこの授業日は土曜日
    つまり施設利用者にとってデジタルおえかき講座は〝元々の予定にない日の授業〟です。受けたくなければ受ける必要がなく、来たくなければ来なくて構いません。誰も利用者に授業を受けろなんて強制していません。
    その上で利用者の中から、「自分もやってみたい」と考えて、あるいは「これなら楽しそうだ」と期待して授業への参加を希望する人が現れ、そして3回目の当日は合計9名の利用者が〝生徒〟として教室で斉藤幸延の講義を受けることになりました。

    もちろん、それぞれの利用者の心情や思考を僕が代弁することはできません。けれどだからこそ僕は事実を見て、それを書きます。
    時刻はもうじき10時。個人的な事情で参加が遅れていた人もいたものの、すでに教室には受講を希望する生徒が集まっていました。


    〈授業開始前から見える利用者の個性〉

    授業が始まる前に、それぞれの生徒へフォトショがインストールされたノートパソコンとペンタブレット(ペンタブ)が1セットずつ配られました。ちなみにペンタブはマウスの代わりにペン型の装置(スタイラスペン)と板状の装置(タブレット)でパソコンを操作する機器であり、ペンタブに慣れれば紙にペンで絵を描くようにパソコンでイラスト作成を進められるようになります。

    副代表が各生徒の名前を呼びながらパソコンを手渡し、T所長や斉藤幸延がパソコンの起動やセッティングをサポートします。また、生徒の中にも積極的に周囲を手伝う人がおり、その光景は本当に、ここが自立生活訓練事業所だと言われていなければ単なるイラスト系専門学校の一場面のようでした。

    「もし彼女と他の場所で接する機会があったとしても、きっと僕を含めて大半の人間は彼女が自立生活訓練事業所へ通所している人だと想像さえしないだろうな」

    それは、明るい様子で他の生徒のパソコン起動を手伝っている生徒の一人に対して僕が抱いた感想であり、今でも事実だと考えていることです。
    デジタルおえかき講座の生徒の中には、なるほど歩行に杖が必要であったり、会話のペースが独特であったりする人もいました。しかし同時に〝端から見ただけ〟ではまず何らかの障害――自立生活訓練事業所の利用条件を満たす事情を抱えていると分からないだろう人達もいました。
    また、例えば歩行用の補助具を使っている人でも、その指先にはホワイトや薄いパープルで彩られたネイルアートが施されていて、さらに指には繊細なデザインのリングがはめられていて……。
    あるいは、別の男性はパソコン作業用のメガネと普段用のメガネを使い分け、しかも普段用のメガネは僕も大好きなアメコミヒーローをモチーフにした限定モデルで……。

    そこにいたのはいかにも〝分かりやすい障がい者〟などでなく、ただ斉藤幸延のイラスト講座を楽しみながら学ぼうとする〝人〟であり、また自分にできる範囲で自身や、支援を必要としている他者のために行動する〝人〟でした。

    その雰囲気が、空気感があまりといえば自然で楽しそうなものだったこともあり、気づけば僕もまた単なる傍観者・第三者として取材対象に接するのでなく、授業へ参加する一員として分かる範囲でパソコンの立ち上げやフォトショの説明などをお手伝いしていました。
    内心、外部の人間が出しゃばりすぎかとも思いましたが、副代表やT所長だけでなく、生徒の方々も受け入れてくれたことは素直にありがたい経験であり、今でも感謝しています。


    〈ブラシの使い方からプロフィールカードの制作まで〉

    あっという間に過ぎていく1時間

    1時間目の授業では、初参加の人もいたということで、前回のおさらいも兼ねてフォトショのファイルの作成手順やデータの保存方法、それから〝ブラシツール〟の使い方などをゆっくりと確認しました。
    ※4. ブラシツール線を描画するための機能(ツール)であり、フォトショでは線の太さや色、スタイルなどを任意に設定できる。


    学びや理解のペースは人それぞれです。
    すでにパソコンやフォトショに関して知識や経験があり、ノートパソコンも自前のものを持ち込んでいる人がいれば、その日が初めてのフォトショ体験という人もいました。言葉で各種ツールの説明を受けても即座にイメージとして操作を再現できない人もいます。
    そのため斉藤幸延が全体的な手順や方法を最初に皆の前で伝えて、改めて個々の席を回ってケアをする、さらにそれを副代表やT所長がサポートする、ついでに僕も少しだけ手伝う、という連携の繰り返しで授業が進行されていきました。

    ファイルの新規作成で真っ白なカンバスを画面に表示させて、
    ブラシツールの設定によって太さや〝線の種類〟を変えて、
    実際にブラシの種類や色を変えながら〝線〟を描いてみて、
    線を描くことに慣れてくれば自分で色々な線を描き分けてみて、
    さらに慣れてくれば〝消しゴム〟ツール〝アンドゥ(取り消し)〟を使ってみて、
    もちろん定期的に〝上書き保存(Ctrl+S)〟も忘れずに――


    1時間なんてあっという間に流れ去ります。
    理解や習得の早い人も、じっくりと考えてから作業する人も、慣れないペンタブの操作に苦戦しつつ画面に線を描く人も、早速「Ctrl+Z(取り消しコマンド)」を駆使する人も……様々なスタイルで学ぶ生徒達は、しかし全員が同様に1時間経過しても真剣にパソコン画面やノートへ向き合っていました。

    授業の途中、別の用事を終えて事業所へやってきた山下代表が顔を覗かせましたが、各生徒の真剣な、それでいて楽しそうな姿に心から嬉しそうな笑顔を浮かべて教室内の光景を見守っていました。





    ――さて、ひとまず今回はここまでとしましょう。
    次の記事では2限目、さらにその次では3限目の授業の様子や、さらに山下代表・副代表の抱く介護業界への想いや今後の展望についてもご紹介していきますので、ぜひ続けてお楽しみください!!


    【取材協力】

    一般社団法人 伸楽福祉会(しんがくふくしかい) ジョブエル
    〒673-0882 兵庫県明石市相生町1丁目2-34 佐藤ビル105号室/108号室




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