#031 障害を抱える方々の感性がデジタルアート化!「デジタルおえかき講座:2限目」

#031 障害を抱える方々の感性がデジタルアート化!「デジタルおえかき講座:2限目」

画像編集ソフトを活用して多様な個性を作品化する新しい障がい者支援サービス事業!

2023/8/11

目次

    こんにちは、文筆家/ライターの淺羽一( @KotobaAsobiComです!
    今回はパートナーアーティストであり、筋肉イラストレーターとして大活躍中の斉藤幸延( @yonyon76が参加する、障害を抱える方を対象とした新プロジェクトへの密着取材の〝2限目〟です(全3回)。
    前回から引き続き、兵庫県明石市にある自立生活訓練事業所「ジョブエル」さんの全面協力の下、「筋力画力理論」をベースとした障がい者向け「デジタルおえかき講座」の授業風景や取り組みの内容について皆さんとシェアさせていただきますのでお楽しみください!

    デジタルおえかき講座:イラストレーター斉藤幸延と、自立生活訓練事業所「ジョブエル」が共同でスタートさせたアート系の障がい者支援サービス事業。障害福祉サービス事業所において、障がい者などへ画像編集ソフト「Photoshop(フォトショップ、以下フォトショ)」を使ったデジタルアート技術を提供して自立に向けたスキル習得を支援すると共に、制作したイラストなどをNFTアートとして公開し収益化へつなげる取り組みをサポートする。
    筋力画力理論についてはこちらの記事を参照!〉→#001 【ごあいさつ】+【筋力画力理論とは?】





    【斉藤幸延のデジタルおえかき講座:2限目】

    それでは、いよいよ「デジタルおえかき講座」の2限目です。1限目についてまだチェックされていない方は、ぜひ先に前回の記事をご覧ください。

    〈自分なりの表現方法とペースで学べる場所〉

    休憩をはさんで11時――2限目の開始、今回の授業内容は「プロフィールカードの作成」です。

    フォトショの新規ファイルとして作成した幅4000×高さ3000(ピクセル)の新しいカンバスに、それぞれの生徒が自分の名前と似顔絵、そして趣味など自己アピールを自由に描いていきます。


    ここでは1限目の授業で習った〝線の描き方〟に加えて、背景や任意の範囲の色を変える〝バケツツール(塗りつぶしツール)〟、作業を効率化する〝レイヤー分け〟といった基本技術を練習します。


    仕事としてフォトショを使う上で不可欠なレイヤー分け

    デジタルペイント技術における「レイヤー(Layer)」とは直訳すると「層」であり、イメージとしてはカンバスの上に〝透明な層〟を重ねていくようなものと言えるでしょう。もしくはアニメーション制作における〝セル画〟をデジタル化させたようなものかも知れません。

    フォトショでは複数のレイヤーを作成し、任意のレイヤーへ絵や文字を描きながら、それらを重ね合わせて〝1枚のイラスト〟として表現します。それぞれのレイヤーは任意に表示させたり消したりできる上、理論上は何層でも重ねていくことが可能です。


    レイヤーを上手に使い分けることで、例えば「自分の顔を描いたレイヤー」の上から「メガネを描いたレイヤー」を重ねたり、あるいは消したりして、瞬時に「メガネをかけている似顔絵/メガネのない似顔絵」という別パターン(差分)を切り換えるといったことが可能となります。
    デジタルおえかき講座の目的は単に楽しくイラスト制作を学ぶというだけでなく、フォトショのスキルを活用して自立や仕事へつなげていくためのチャンスを拡大することです。レイヤー分けはフォトショを業務利用する上で不可欠なテクニックであり、生徒も各自が真剣に取り組んでいました。



    〈否定でなく肯定ポイントを見つけて伝え合う対話〉

    2限目も瞬く間に過ぎていき、時刻は間もなく正午。
    途中経過を互いに見せ合いながら、生徒達は口々に相手の作品の〝素敵なところ〟や〝好きなところ〟を言葉にします。
    客観的に、見たままの評価を言えば、作品の品質や状態、フォトショの技術は生徒によってまるで異なります。素直な感想として「僕より上手いな」と思える人がいれば、ごく限られた線と色で名前や背景を描くのが精一杯という人もいました。しかしそれは障害の有無がどうこうというよりも、そもそも〝初めてペイントソフトを使う〟ことを考えれば不思議ではありません。
    むしろ、初めてフォトショを触ってブラシやレイヤーを使い分け、自分なりの表現方法を考えて、実際に画面上で再現するという一連の作業をこなしていると考えれば上出来とさえ思えます。



    〈趣味としてのお絵かきと仕事としてのイラスト制作〉

    お昼休憩に入って、ジョブエルが用意してくれた立派なお弁当(+プリン!)をごちそうになりながら僕と斉藤幸延は山下代表(以下、代表)と色々な話をしました。
    ちなみにお弁当は施設職員や利用者の中で希望する人へ配られており、食事という楽しみについてもしっかり取り組まれていると実感できたことは貴重な経験です。


    さて、僕は改めて授業や事業について斉藤幸延や代表の言葉をうかがいました。
    斉藤幸延は言いました。
    「専門学校の生徒へ指導するペースと比べれば、授業の進み具合は十分の一くらいかな」
    当然でしょう。そもそもイラスト系の専門学校へ入学してイラストレーターを目指そうという学生であれば、入学前から自分なりにペイントソフトや画像編集ソフトを使っていた経験があってもおかしくありません。障害の有無に関係なく、初心者へデジタルアートを基礎から丁寧に教えるとなれば時間はかかります。

    その上で、続けて斉藤幸延は言いました。
    ダメって言わなくて良いのは楽しい。無責任とか放置しているって意味じゃなくて。生徒の気持ちや感性を否定せず、教科書通りの正解や間違いを一方的に押しつけるのでもなく。パソコンで絵を描くための基礎や基本をきちんと指導しながら、本人の思うように個性を表現する方法を一緒に考えて、それを仕事として活かすためのアイデアを共有できる授業は、講師としても本当に楽しい」

    プロのイラストレーターは、クライアントから求められたイラストを己の技術と感性によって創作し、成果物として提供する仕事です。
    アーティストとしての個性や独自のスタイルが求められると同時に、依頼主のニーズへ応えるスキルと経験が必要になる職業です。
    そのため、自分が描きたい作品を自由に描き、それを販売するなどして生計を立てる芸術家とは根本的に前提が異なります。そして〝芸術家〟として自立した生活を送れるかどうかは、たとえ一流の絵画技術を持った人であっても確実に大丈夫と断言することができず、仕事として確立するためには少なくないハードルがあるでしょう。
    その点、ジョブエルの支援サービスとして実施されている「デジタルおえかき講座」は、デジタルアートの知識やスキルを学べる機会であると同時に、施設利用者の自立や社会生活、地域社会への参加を具体的に後押しするチャンスの場です。

    イラストレーターが生み出すものは個性を反映した作品であると同時に〝商品〟です。
    そして斉藤幸延の「デジタルおえかき講座」では、イメージを創造して作品として自己表現するための技術や知識を提供すると同時に、個々の生徒の個性と感性を活かして〝商品化〟へつなげる道筋を追求します。

    斉藤幸延は嬉しそうに言いました。
    「生徒の中にすごい人がいる。才能という点で見ればうちらよりも遙かに優れていて、まだちょっとコツを教えただけなのに、すでに〝商品化〟を期待できそうな生徒が複数いる。これから先が楽しみで仕方ない」

    単なる夢物語や理想論といった綺麗事でなく、業界の最前線で活躍するプロの目から見た事実としての可能性と、それが示す商品価値や発展性。

    (あぁ、それは確かに、仕事として絵を描けない僕でもはっきりと感じられる楽しみだ)

    そしてまた、それを第三者の立場で客観的に眺めるだけでなく、実際に当事者の一人として参加し、生徒や他の職員と一緒になって事業の成功を目指していく。
    斉藤幸延と代表が本当にわくわくとした表情で今後の展開を語ってくれる様子を見つめながら、そんな風に若々しく見えるのは間違いなくジョブエルという場所があり、そこへ集う人々が互いに楽しみやエネルギーを共有しているからだと感じました。





    ――以上、あっという間に2限目とお昼休みも終わりです。
    次はいよいよ授業の最終コマである3限目。各生徒がどんなプロフィールカードを制作したのか、またそのためにどんな姿勢で作業へ取り組んでいたのか、詳しく紹介するのでお楽しみください!!


    【取材協力】

    一般社団法人 伸楽福祉会(しんがくふくしかい) ジョブエル
    〒673-0882 兵庫県明石市相生町1丁目2-34 佐藤ビル105号室/108号室





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