#034 生成AIツールを使う際の注意点。「AIが作る」のでなく「AIで作る」という意識と責任(後編)

#034 生成AIツールを使う際の注意点。「AIが作る」のでなく「AIで作る」という意識と責任(後編)

正しそうに見えるけれど、実際には〝おかしな絵〟になっていることも多いAIイラスト

2023/11/8

目次

    こんにちは、文筆家/ライターの淺羽一( @KotobaAsobiComです。
    早速ですが、前回に引き続き、生成AIツールを活用する上で注意すべき点や、生成AIツールを上手に利用して作業効率を高めていくポイントを解説していきます。
    後編となる今回はいよいよ、パートナーアーティストであり筋肉イラストレーターとして大活躍中の斉藤幸延( @yonyon76がイラスト生成AIツールを活用して作品を描く流れなどを紹介していきますので、絵を描く人も、見る専門という人も、ぜひお楽しみください。



    【自分のスタイル・表現を生成AIツールに学習させて創作する】

    斉藤幸延のように業界の最前線で活躍しているプロのイラストレーターにとって、生成AIツールはデジタルペイントツールや画像編集ソフト、デザイン加工アプリなどと同様に『便利なデジタル技術』であり、上手く使えば作業効率や生産性を高めてくれる道具です。
    そして、例えば多くのプロのイラストレーターが画像編集ソフト『Photoshop(Adobe社)』のようなデジタルツールを使って自分のスタイルでCGイラストを描くように、斉藤幸延は早くからツールの1つとして生成AIツールも作業に取り入れて多角的な創作活動を行ってきました。

    〈独自のファイルサーバやアクセス環境を自ら構築〉

    斉藤幸延は、Adobe社の生成AIツール『Adobe Firefly』や、『ChatGPT』を基板としたOpenAI社の画像生成AI『DALL-E3(DALLE3)』といった生成AIクラウドサービス(AIジェネレーター)を〝そのまま〟使うのでなく、これまでに自分で集めた膨大な資料写真や画像データでファイルサーバを構築し、それと生成AIツールを連携させることでオフライン利用できる独自のAIイラスト生成環境をテストしていました。
    この辺りは、さすが元ゲーム会社でゲーム開発プロジェクトに携わっていたプロであると感心します。このようなスキルもまた彼のイラストレーターとしての〝厚み〟を増す武器といえるでしょう。

    そして現在、斉藤幸延は複数の生成AIツールや機能を使い分けながら、プロとしての自己表現の幅を拡大してイラストの品質を向上させています。
    ※斉藤幸延による、生成AIツールを含めたデジタルツールの使い方やイラスト制作のメイキングについては、2023年11月10日(金)発売のコンピュータグラフィックス・映像クリエイター総合誌『CGWORLD』で詳しく特集されていますので、そちらも参考にしてください。


    【プロの現場で使われるイラスト生成AIツールの実用例】

    〈AIイラスト技術①:自分で描いた人体モデルを生成AIツールでペイント〉

    生成AIツールを活用する方法の1つとして、『ペイント(塗色・塗装)作業』をAIで自動化するというものがあります。

    例えば斉藤幸延の場合、まず3DCGソフトで人体の3DCGモデルを作成し、さらにそれを画像編集ソフトへ取り込んで2DCGイラストのベースを作成します。
    そしてそのベースに対して、イラスト生成AIツールを活用してディテール(ペイント作業)を追加していくという流れです。



    AIに対して提示するプロンプトには、
    〈ボディビルダーの上半身、正面〉
    といったキーワードや文章を利用し、これまでに学習させた『ボディビルダー』や『正面から見た(人体の)上半身』などの関連データにもとづいて、文字通りベースのイラストへ〝肉付けする〟という工程になります。


    ただし、実際には一度の生成作業で理想通りの〝筋肉〟を得ることは困難なため、本人が納得できるまで作業を繰り返したり、良い部分だけを抽出して再合成したりすることがポイントです。ジョークのようなリアル話として、場合によっては斉藤幸延が自分で描いた方が早い、というケースもある点はまさに筋肉イラストレーターという感じですね。

    〈AIイラスト技術②:自分で撮影した画像を学習させてイラストに反映させる〉

    作業効率を高めてくれるイラスト生成AIツールですが、時にはいつまで経っても思い通りの仕上がりにならなかったり、AIの学習が不十分でそもそもプロンプトに対応できなかったりという場合も少なくありません。

    そのため、斉藤幸延は必要に応じて新しい画像データを収集したり、新しく取材で撮影した資料写真を利用したりして、AIのデータベースを補強しています。
    例えば以下のイラストは、斉藤幸延が参加して始動した「全生物マッチョ化計画」を推進する新企画『Muscle Worldプロジェクト』で生み出された〝マッスルキャラクター(モデル:ジャガー)〟の1つですが、彼は納得できる〝ヒョウ柄(ジャガー柄)〟を再現するため実際に動物園を訪れ、現地で生きたジャガーを撮影し、その写真をフォトバッシュ技術でイラストに利用しています。



    イラスト生成AIツールを使えば、従来の方法よりも簡単便利にイラストを生み出せると考えている人は少なくありません。しかし実際にプロの作業現場を確認すると、必要な取材や情報収集に今までと変わらず取り組んでおり、決して〝AI任せ〟になっていないことが分かります。

    〈AIイラスト技術③:背景や効果といった演出加工・合成〉
    複数の工程でAIを利用して色々な表現方法を追求できますが、例えば新しいエフェクトの生成や合成といった工程でも生成AIツールは役立ちます。
    例えば、まず『Adobe Firefly』にプロンプトとして「夜の煙」を入力し、「暗闇の中で浮かび上がる煙の写真(風)画像」を生成します。
    そして、そうして得られた画像の中から任意の〝煙〟を選択し、さらにそれをベースとしてフォトバッシュ技術で加工することで、新しい〝煙エフェクト〟を合成するという流れです。


    元々、横断歩道のひび割れの写真でビームを合成したり、唐揚げやチョコレートの写真で爆発エフェクトや瓦礫エフェクトを合成したりしてきた斉藤幸延にとって、写真生成AIツールを利用したフォトバッシュ加工はまさに鬼に金棒といったところでしょう。




    〈最終的な仕上げとチェックはプロの目と手で〉

    これらのような技術やツールを組み合わせて制作されたイラストは、改めて斉藤幸延の経験や感性によってブラッシュアップされて、やがて1枚の作品として仕上げられます

    言うまでもありませんが、仮に僕がイラスト生成AIツールを利用したところで、彼の作品と同じイラストを実現することは困難でしょう。
    絶対に不可能、とまではならないかも知れませんが、現実的にこのレベルの成果物をAI生成しようとすれば、果たしてどれだけのプロンプトを工夫し、さらにどれだけの試行回数を重ねなければならないのでしょうか。
    1時間? 1日? 1週間?
    とてもではありませんが、絵を描けない僕がイラスト生成AIツールを使い、仕事としてイラスト制作を請け負うことは極めて困難です。それをするくらいであれば、いっそプロのイラストレーターへ再委託(丸投げ)してしまう方が遙かに合理的でしょう。

    結局、生成AIツールは確かに便利で強力で、確かな技術と利用法にもとづいて使えば優れたデジタル技術ですが、それを使うのはあくまでも〝人〟であるということです。

    【正解っぽく見えても間違っている可能性を常に考える】

    〈AIは簡単に〝間違える〟という前提〉

    今回、生成AIツールの利用について斉藤幸延に皆さんへのアドバイスを求めたところ、こんなメッセージが返ってきました。


    〝ちゃんと調べて描きましょ~。それっぽくても間違ってるかもよ〟

    上の写真は、僕が『Photoshop』の生成AI機能を使って、日本の10円玉のデザインとしても有名な『平等院鳳凰堂』を〝洋風建築にリフォーム〟させてみた作品例です。

    平等院鳳凰堂の写真は僕が以前に撮影したものであり、AI生成を用いた変換作業はあっという間に完了して、いくつかの候補が得られました。

    なるほど見事な機能であり、僕では決して描けないような『洋風建築』がその場に現れました。
    ……が、ん?
    池の水面を見れば、そこに映っているのは〝伝統的な平等院鳳凰堂〟。
    何ともちぐはぐでだまし絵のような仕上がりです。
    言うまでもなく、これはそもそも僕がAI生成の対象として指定していた範囲に不備があり、つまりツールの利用法に誤りがあったために発生したエラーとなります。
    とはいえ実際問題、生成AIツールを使用していると〝自分の操作手順にはミスがないのに一部(もしくは大部分)がおかしな絵〟と出会うことも少なくありません。

    〈そもそもクライアントやAIに提供されるものが常に正しいとは限らない〉

    すでに解説したように、AI生成ツールはこれまでの〝学習〟にもとづいてコンテンツを生み出します。そしてその学習には、データベースとして収集された画像などのデータに加えて、ユーザーからの評価といったフィードバックも含んでいます。

    では、もし〝フィードバックの内容が間違っている〟とすればどうなるでしょう?

    これは僕のような文筆業でもしばしばあることですが。
    例えば何かしらの製品紹介やマニュアル解説といった文書を執筆するに当たって、クライアントから参考情報やサンプルとして資料やデータを受け取るとします。そして、それらの内容を踏まえて原稿を作成するのですが、
    〝資料の情報が間違っている、サンプルの内容が古い(情報更新されている)〟
    といったケースは少なくありません。
    いっそメーカーや企業の公式ホームページに記載されている情報にしても同様です。

    これは僕の実体験ですが、かつて広告代理店から海外メーカーのコスメ商品について紹介するという文章を依頼された時、参考資料やメーカーの公式HPに記載されている商品名(英語)に〝スペルミスがある〟ということがありました。
    対象商品の日本語公式HPで製品情報をまとめているページにテキスト表示されている商品名(アルファベット)と、製品パッケージを撮影している写真画像で確認できる商品名の印字を見比べた時に、両者でスペルが異なっており、〝どちらか一方が間違っていると思われる〟という状態になっていたのです。

    幸い、テキスト表示されているスペルは英単語として存在しないものであり、商品名のコンセプトと照らし合わせてもどちらが誤記であるのかは明白でした。もちろん改めて海外サイトをチェックして正式名称を再確認しましたが。
    とはいえ、もしあの時に僕が写真のアルファベットを見落としていれば、僕もまた製品名を間違えたまま紹介記事を書いていたかも知れません。
    それは、見方によっては『依頼人からの指示通りに書いた結果』だと開き直れる話かも知れませんが、実際には文筆業を営むプロとして失格です。
    ちなみに、その商品を宣伝・紹介している日本のブログやネット記事などは、ネット検索で上位表示されたものほぼ全てで製品名を間違えて――以下、自主規制。

    〈AIの本質はトライアル&エラー(試行錯誤)〉

    生成AIツールは、今はまだ発展途上の技術であり、決して100%の品質保証が得られている理想のシステムではありません。そのため自分の操作ミスがあればもちろん、仮に自分の使用方法にミスがなくとも、AIの〝学習内容〟や生成プログラムにミスがあれば結果として得られるコンテンツはエラー(失敗作)となります。
    そしてエラーに気づかないままそれを納品してしまった時点でプロとして失格ということになるでしょう。
    そのためプロとして活動したいと思うのであれば、相応の意識や覚悟を持つことが、クリエイターの責任です。

    【生成AIツールを上手く使えば初心者でも表現の幅を広げられる】

    生成AIツールを利用したからといって、誰でも一流のプロのように、高品質で信頼できる成果物を生み出せるわけではありません。むしろプロとして備えているべき基礎がなければ、AI生成ツールは『一見すると正解っぽい〝不良品〟を量産する危険なシステム』にさえなり得ます。

    逆に、正しく指導されて基礎――創作における基本的な技術や考え方、創作者としての姿勢を身につけた上で生成AIツールを利用するのであれば、それは本当に便利で様々な可能性をもたらしてくれるチャンスになります。

    実例として、斉藤幸延が理事を務める一般社団法人伸楽福祉会の運営する自立訓練(生活訓練)施設『ジョブエル』では、施設を利用している人々――様々な障害を抱えた人々が、Photoshopやイラスト生成AIツールといった画像編集ツール・CG描画アプリなどのデジタル技術を活用しつつ、色々な創作活動にチャレンジしています。


    余談ですが、現在ジョブエルでデジタルペイント技術を学ぶ利用者のイラストを公開する場所として、仮想現実(VR)技術を活用したバーチャル美術館『ジョブエル・メタバースギャラリー』の準備も進められています。


    ジョブエル・メタバースギャラリーでは、展示作品はもちろん、ギャラリー空間そのものの設計やデザイン、構築なども全て利用者が自分たちで行う〝オール利用者メイド〟が特徴となっており、CG技術やAI技術、VR技術といった様々なデジタル技術・IT技術を活用した障害者支援の新しい取り組みとしてこちらからも目が離せません!


    ジョブエル・メタバースギャラリーについてはまた別の記事で紹介させていただきますので、ぜひそちらもお楽しみください。





    ――いかがでしょうか。
    生成AIツールが普及し、誰でも気軽にAI生成を利用しやすくなったこともあって、ネット上では
    『AIイラストが当たり前になればイラストレーターは職を失う』
    『生成AIツールを使った作品なんて〝偽物〟と変わらない』
    といった趣旨の発言もしばしば見られます。
    しかし実際にプロの現場を見てみると、彼らは〝AIに依存している〟のでなく、あくまでも〝AIを利用している〟のであると分かります。そして、この違いこそが彼らを『プロ』たらしめる本質的な要素かも知れません。逆にその自覚や自信がなければ、遠からずAIに仕事を奪われてしまうかもしれないと不安になることも理解できます。
    そしてそれは文章の世界でも同様です。
    正直に言えば、文章生成AIツールによって制作された文章はすでに、プロ・アマを問わず大半のライターや物書きの文章より〝上手い〟と思います。ですが、それは必ずしもAIツールが優れているというわけでなく、単に〝技術的に未熟なライターなどが多い〟というだけです。
    事実、少なくとも現時点ではまだ、AIによって書かれた文章にはしばしば〝AIの癖〟が認められ、残念ながらそのまま成果物として納品できるレベルには達していません――が、まぁ世の中にはそれでOKという人々や依頼もあるでしょうし、それはそれとして。

    もちろん、考え方や価値観は人それぞれです。ですが、それでもやはりイラストレーターであれ文筆家であれ、プロとして仕事を引き受け、成果物の対価として金銭を受け取るのであれば、自らが主体となって責任と自覚を持ち続けたいものです。


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