#022 ヘアドネーションの記念本【31cm】の印税が寄付されたと聞き、改めてヘアドネについて考える。

#022 ヘアドネーションの記念本【31cm】の印税が寄付されたと聞き、改めてヘアドネについて考える。

髪の毛を寄付するという行為(ヘアドネ)は『人助け』かそれとも『自己満足』か?

2022/5/15

こんにちは、文筆家/ライターの淺羽一( @KotobaAsobiComです。
先日、出版社KuLaScip(クラシップ)から、僕も制作に参加させていただいた〝ヘアドネーション〟の記念本【31cm】について、2021年度印税分に当たる『779,520円(※1)』がNPO法人JHD&C(ジャーダック)へ寄付されたとアナウンスが行われました。
※1:2021年度印税分:2021年4月~2022年3月の印税分


そこで今回は、改めて『ヘアドネーション(ヘアドネ)』について考えてみたいと思います。
前半はヘアドネに関する説明後半は僕の考え方をまとめています。全体的にやや長くなってしまいましたが、
「ヘアドネーションをしよう!」
ではなく、
「ヘアドネーションを知ろう!」
という気分でのんびり読んでもらえれば幸いです。




【髪の毛を寄付するヘアドネーション(ヘアドネ)】

〈ヘアドネーション(ヘアドネ)とは?〉

ヘアドネーション(ヘアドネ)とは文字通り『ヘア(髪の毛/人毛)』を対象とした『ドネーション(寄付行為)』です。
また、髪の毛を寄付する人を『ドナー(提供者)』と呼び、現在は複数の団体や個人が髪の毛を寄付・収集したり、収集された髪を医療用ウィッグ(※2)の製作へ活用したりと、様々な活動をしています。
※2:医療用ウィッグ(メディカル・ウィッグ)……病気や治療、事故など何らかの事情で髪の毛を失った人のために用意されるウィッグ(カツラ)。一般的には使用者の頭のサイズや形状、要望に合わせてオーダーメイドまたはカスタムメイドされる。なお、頭部全体をカバーするウィッグを『フルウィッグ』と呼ぶ。

〈人毛で作られた医療用ウィッグへのニーズ〉

一般的に、人毛を加工処理して材料に使い、さらに使用者に合わせて調整された医療用ウィッグは、知らない人が見ればほとんどウィッグであると気づかれないくらい自然な仕上がりとなります。そのため、例えばファッションアイテムやコスプレグッズとして使われるような、化学繊維を材料とした人工毛ウィッグと比較して、ヘアドネ由来の人毛ウィッグはとても人気があります。
ただし、ウィッグ製品の中でトップグレードの品質を追求された医療用ウィッグだからこそ、例えば使用者の成長によって頭部のサイズが変化すれば、改めて新しいウィッグへ交換しなければならないといった問題も無視できません。実際のところ、製造コストや加工・メンテナンスの手間などを考えて、人毛ウィッグよりも化学繊維などを活用した人工毛ウィッグの方が求められることもあります。

〈1つのメディカル・ウィッグを作るために必要な髪の毛の量と長さ〉

一般論として、ヘアドネによって集められた髪の毛のみを使う場合、1人分の医療用ウィッグ(フルウィッグ)を製作するためには〝30~50人分の寄付〟が必要とされています。この理由は主として『寄付される髪の毛にはウィッグ製作に使えない〝短い髪〟もたくさん含まれているから』です。また、『そもそもドナー1人から寄付される髪の毛は頭部全体をカバーできる量に足りないから』という理由もあるでしょう。
団体や製作者によって違いがあるものの、国際的な標準規格として人毛フルウィッグ(医療用ウィッグ)へ活用できる髪の毛の長さは〝31cm(約12インチ)以上(※3)〟とされています。
※3:ヘアドネーション記念本【31cm】のタイトルの由来。

例えば「腰まで伸ばした髪をばっさり切って60cmの髪を寄付しました!」というドナーがいたとします。それほどの長さになれば日常的なケアも大変でしょうし、伸ばすまでにかけた時間も相当のはずです。
しかし、その際の〝60cm〟とは往々にして『一番長い髪の毛の長さ』です。
当然ながら、頭頂部から生えている髪の毛と、うなじの辺りから生えている髪の毛では、同じく〝腰まで届く長さ〟であったとしても全長は変わります。つまり〝60cmの髪の毛の束〟として用意されている毛髪があっても、〝全てが60cmの長さではない〟という点が重要です。
加えて、医療用ウィッグを製作する場合、髪の毛は元から生えていたように1本ずつ端をベースに埋めるのでなく、より抜けにくくするため〝ベースに髪の毛を通して半分に折り返し、両端が外側へ出る〟ように使います。つまり、〝寄付された髪の半分の長さでしかウィッグを作れない〟ということです。
そのため仮に『60cmの髪の毛』が寄付されても、製作できるのは〝最大30cmの髪の長さを持つウィッグ〟であり、ましてやそれだけの長さのフルウィッグを作るためにはとてもたくさんのドナーが必要です。
医療用ウィッグを使う人にとって、色々な髪型やスタイルを自由に楽しめるチャンスが広がることは悪くないでしょう。髪の毛を寄付するドナーにしても、例えば自分たちの髪の毛や努力――〝善意〟が誰かのために役立っていると考えることは、自信や自尊心につながるかも知れません。
しかし実際問題、医療用ウィッグを製作・取得する条件は決して緩くなく、根本的に医療用ウィッグを使いたいと考えている人の数に対して提供されるウィッグの数は限定的です。その上、医療用ウィッグ使用者が〝必ずしも理想を叶えられているとは限らない〟という点も忘れてはいけないポイントです。

『ヘアドネーションに使える髪の毛の条件』

しばしば誤解されていますが、ヘアドネーションにおいて寄付できる髪の主な条件は
  • 最も長い部分で31cm以上の長さを持つ髪の毛
  • 軽く引っ張っただけで切れるなど極端なダメージのない髪の毛
  • 団体ごとの寄付する際の条件を守って送付されてきた髪の毛
以上の3つです。年齢・性別・髪色といった条件による制限は特になく、髪を染めたりパーマをかけていたりしても、過度なダメージヘアでなければ問題ありません。白髪交じりでも癖っ毛でも大丈夫です。
もちろん〝人情として〟大切にケアした髪の毛を送ってあげるべきと考えることもあるでしょう。ですが、「髪色を変えたいけどヘアドネをするために髪はずっと黒髪を守らなくちゃいけない!」といった〝思い込み〟でストレスを抱えることはおすすめしません
むしろ個人的には「ロングヘアなど色々なスタイルを楽しんだり、髪の毛を使った企画を遊んだりする〝ついで〟に髪の毛を切る時は寄付しようか」くらいの気軽さで良いと思っています。


〈そもそも医療用ウィッグを使う人は〝かわいそう〟なのか?〉

髪の毛を失う理由は人によって様々です。生まれつきの病気が理由の場合もあれば、病気やケガの治療の副作用で髪を失う人もいます。理由が不明なまま髪を失う人もいるでしょう。
そして、そのような人々が医療用ウィッグを必要とするとして、需要に対して提供できるウィックの量や種類は現実的に少なくなります。つまり〝ウィッグを使いたいのに使えない人〟が確実に存在するということです。
さて、それでは『髪の毛を失い医療用ウィッグも使えない人』は〝かわいそう〟で〝不幸〟なのでしょうか?
なるほど、使いたいのに使えないのであれば、それは気の毒な話かも知れません。逆にたまたまチャンスを得てウィッグを使えた人は〝幸運な人〟であるともいえそうです。
しかし、『自由にヘアスタイルを選べない(髪型で遊べない)』という点だけを見れば、そのような人はきっと、ヘアドネによる医療用ウィッグの提供対象者でない人の中にもいます。体質、年齢、人種、仕事の都合、伝統・文化、宗教――理由も様々です。
詰まるところ、本人が『かわいそう』や『不幸』であるのか、それとも〝他の多くの人とさほど変わらない〟のか、それは〝本人の感じ方/考え方次第〟だと少なくとも僕は思っています。
髪の毛がなくても気ままに自分のスタイルを楽しむ人はいるでしょうし、髪の毛があっても他の部分で悩みを抱える人は少なくありません。目の前にいる『医療用ウィッグの使用者』が必ずしも〝自分より不幸な人〟であるとは限りませんし、医療用ウィッグを贈られた人であっても〝違う髪型を楽しみたい気分の日〟にはいっそすっきりした〝禿頭スタイル/ノーヘアスタイル〟で遊びに出かけても構わないはずです。

〈髪の毛は切って捨てるだけであれば〝ゴミ〟〉

あくまでも僕の考えですが、髪の毛が当たり前に伸びる人にとって、それは色々な髪型を試したり楽しんだりできるチャンスであると同時に〝切って捨てればただのゴミ〟です。何なら散髪代を節約できるなら髪は必要以上に伸びて欲しくないと考えている人もいるでしょう。
僕自身は過去に約50cmのヘアドネを3回行い、記念本【31cm】にもドナーの1人(一部文章作成)として参加していますが、僕にとってヘアドネの理由は
「どうせ切って捨てるだけだし、使い道があるなら再利用すれば良いのでは?」
という程度でしかありません。僕から寄付された髪が、実は供給過多のために廃棄されていたとしても、処分する手間が省けたな、くらいにしか思いません。むしろ医療用ウィッグが供給過多――ウィッグを必要とする人が減っているのであれば、それはそれで良い話でしょう。
もちろん、人の考えは様々であり、中には心から誰かを助けようと髪を伸ばして、手入れをして、そうして目標の長さを寄付する人もいます。そのような人々にとって髪の毛は〝善意の象徴〟かも知れませんし、だからこそ大切にされたいと願うこともあるでしょう。
とはいえ、それは詰まるところ個々人の考え方――自由意思の問題であると思います。

〈参加したい人が気楽に参加すれば良いヘアドネーション〉

僕が初めてヘアドネについて知ったのは2015年の5月か6月頃のことです。当時、僕の髪は背中へ届こうかというくらいに伸びており、ちょうど切ろうかどうしようかと考えていた時に『アメリカで少年が髪を伸ばしてヘアドネに使った』という海外のニュースを知りました。


そしてさらに調べると、日本でもヘアドネを行っている団体が大阪にあると知り、それこそが本記事の冒頭でも名前を挙げた団体――『NPO法人JHD&C(ジャーダック)』です。


当時はまだヘアドネに対する社会的認知度が低く、仕事で美容師の団体と交流した際もヘアドネについて知っている人はほとんどいませんでした。
その後、2015年の12月頃に人気女優がヘアドネを行ったことが話題になって一気に認知度が高まり、それに比例してドナーも増えていきました。現在はあの頃と違って多くの人が『ヘアドネーション(ヘアドネ)』という単語を知っており、男性も髪の毛を伸ばしやすくなるなど〝ヘアドネに参加しようと思った人が参加しやすい環境〟が整ったと考えれば良いことだと思います。
しかし、いかにも『髪の毛をがんばって伸ばして、〝髪の毛を失ったかわいそうな人々〟のために髪を寄付する』という部分にばかり注目が集まり、過度にヘアドネが正義化されたり善意の象徴として扱われたりする風潮に対しては――あくまでも僕の個人的な感想として、いささか危機感や違和感も抱きますが、さて、どうでしょう。
僕としては、おっさんが気まぐれに丸坊主やツインテールを楽しむのが簡単になった、という自己満足だけで十分なのですが。


――いかがでしたでしょうか。
ヘアドネーションを社会的に重要なボランティア活動やチャリティーとして考えている人にとって、『ヘアドネなんて〝ついで〟で構わない』という僕の考え方は、もしかすると不愉快とさえ思えるものかも知れません。
医療用ウィッグを受け取る人や使う人にとっても、僕のように『ヘアドネなんて気楽に参加したい人がやれば良い』という考え方は、供給量を低下させかねないリスクかも知れません。
とはいえ、人の体質が人によって異なるように、考え方も人それぞれだと思います。ヘアドネに重ねる想いや実際に寄付をする理由もまた様々です。
髪を長く伸ばすためには時間がかかります。長い髪を保つためには多くの苦労もあるでしょう。だからこそ、そうして伸ばされた髪が寄付されれば、その髪が実際に何cmであるかにかかわらず大切に使おうと丁寧に活動する人々がいます。
自由に髪型を楽しみたい人もいます。一方で思い通りに髪型を選べない人がいることも事実です。だとすれば誰であろうと〝長さにかかわらずどんなヘアスタイルであれ楽しめるきっかけ〟が増えることは悪くないでしょう。
何が正常で、誰が正義で、どれが正解だとことさらに考えて選択肢を狭めるのでなく。それはそれ、これはこれ、の精神で気ままに楽しみ方の幅を広げていければ、いずれ僕自身に今ほど髪が伸びない時が訪れた際にも新しい楽しみ方を見つけられるのではないのかしらと思います。

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